文学部横断型人文学プログラム

横断型人文学プログラム

ジャパノロジー・コース

ジャパノロジー概論

 「ジャパノロジー(直訳:日本学)概論」では、<日本>を内と外の両方から見つめ、「クール・ジャパン」に代表されるステレオタイプのイメージでは捉えきれない多様性をもった<日本>の発見を目指します。

内からの視座① 歴史学・民族学から捉える

 最初の3回は史学科の北條勝貴先生による講義でした。全体的なテーマは「<日本>を壊す」。日本固有のものと思われがちな礼儀の概念が実は中国の儒教の言葉であることや、その一方で、開国後の日本が中国文化から脱却し欧米列強と肩を並べる手段としての植民地支配を正当化するために古代神話に依拠したという事実(稲作のできる場所はすべて「豊葦原瑞穂の国」という考え方)、さらに、そうした神話に基づく近代国家樹立の過程の中で淘汰されていった「やまびと」に関する記録等から浮かび上がってきたのは、<日本>の曖昧さ、でした。

内からの視座② 宗教・思想・哲学から捉える

 哲学科の大橋容一郎先生による講義でした。明治6年に創設され、2年で解散した同人「明六社」のメンバー(森有礼、西村茂樹、津田真道、西周、中村正直、加藤弘之、福澤諭吉ら)が当時抱いていた<日本>への危惧や、彼らが提唱する近代化の方法(中国由来の思想を打破し、人心を変革する)についてのお話がありました。自由主義を謳っていたメンバーの多くが後に国家主義に転向していった、という事実は興味深かったです。

内からの視座③ 国立歴史民俗博物館見学会

 ついに講義は四谷キャンパスを飛び出し、千葉県佐倉市にある国立歴史民俗博物館(愛称:歴博)へ。同館の研究部教授松尾恒一先生から詳しい説明を伺いながらの贅沢な見学会でした。名称のとおり民族(異文化理解)ではなく民俗(自文化理解)をコンセプトとした館内は、日本の庶民の生活の歴史に溢れていました。繭や穀物をネズミから護る「イエネコ」は、なんと弥生時代からいたそうです。

外からの視座① アジアから捉える

 国文学科の長尾直茂先生による講義でした。ひとつの文化が伝播し、現地の文化と接触しながら変容していく例として、日本における三国志演義受容の歴史についてお話しいただきました。正史『三国志』よりも通俗小説『演義』で語られる登場人物(関羽等)のイメージが人口に膾炙するようになった経緯について学ぶことができた貴重な時間でした。

外からの視座② ヨーロッパから捉える

 ドイツ文学科のドゥッペル先生による美しい日本語での講義でした。テーマは「ドイツにおける日本学の成立と発展」。最初のドイツ人日本学者ケンペル(17世紀に来日)やシーボルト(19世紀に2度来日)が自国にもたらした影響、19世紀末からのドイツにおける日本研究の組織化、ナチス政権時代の両国間の交流、戦後の日本学までの一連の流れを辿りました。日本学の研究対象が文学、人文学から社会学へと移行し、文学は現在2、3つの大学でしか研究されていないことや、2000年以降2つの日本学科が閉鎖された(関心は中国へ)という衰退の現実も知りました。

特論① メディアから捉える

 新聞学科の碓井広義先生による講義でした。「映画監督実相寺昭雄氏の世界」というテーマで、氏の作品に見られる独特の映像美(広角レンズを用いた実相寺カット)や、込められたメッセージ性についてお話しいただきました。文明を破壊する悪の存在として描かれない『ウルトラマン』シリーズの怪獣たちや、『怪奇大作戦』の「京都買います」のストーリー(高度経済成長によって破壊されていく京都の町をヒロインが護ろうとする)から、科学発展の暗部や「新たな野蛮」としての人間を描こうとした氏の姿勢を確認することができました。

特論② サブカルチャーから捉える

 岐阜女子大学教授で日本文学研究者の助川幸逸郎先生による講義でした。1回目は『ゴジラ』、2回目は女性アイドルの歴史がテーマでした。特に、1953年に制作されたアメリカ映画『原始怪獣現わる』と日本の『ゴジラ』シリーズにおける怪物の描かれ方(は虫類のように敏捷に動く原始怪獣に対し、ゴジラはタメをつくりながら重々しく移動する)には、崇高(サブライム)なものに対する考え方(地上の支配権は神によって人間に委ねられている、というキリスト教的思想をもたない東洋では、怪獣に―猛獣扱いする西洋とは違い―サブライムを見る)が影響している、というお話が面白かったです。

クロストーク

 最後から2回目の講義は、北條先生、大橋先生、長尾先生、ドゥッペル先生の4人の先生方によるクロストークでした。学生からは時事問題に関する問い(自己責任論や想像力の欠如、「人材」という言葉の是非など)が投げかけられ、それぞれの問いに対し、先生方がそれぞれの専門的視座から答えてくださいました。ひとつの問題を多角的に見る面白さ、大切さを先生方とのやり取りを通して実感できた、密度の濃い100分間でした。

まとめ

 「ジャパノロジー概論」の最後を締めくくってくださったのは、史学科の北條先生です。テーマは「アニメーション(アニマ⇒モノに宿る霊魂を活性化させたもの)とアニミズム(アニマは万物に宿っているという考え方)」。動画としての「アニメーション(アニマを吹き込まれて動く絵画)」を宮崎駿監督と高畑勲監督がどのように捉えたかについて、両監督の作品を比較しながら見ていきました。ヒューマニズムを否定し、自然から人間を見る宮崎監督と、人間の営為を肯定し、人間側から自然を見る高畑監督。2人の考え方は対照的で、宮崎作品の方がよりアニミズム的ではあるけれど、「アニメーション」を身体表現として捉えている点は両作品とも同じである、というお話でした。